大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)3264号 判決

被告人 高木進

〔抄 録〕

第一点。

原判示事実は、原判決挙示の証拠により優にこれを認めることができ、記録を精査するも、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はなく、従つて、原判示所為の態様に照らし、その所為の詐欺の罪に該当することは自づから明らかであるから、原審が、刑法第二百四十六条第一項所定の詐欺の罪に問うたことは正当である。所論において、被告人が交付を受けた原判示金員は、その交付者たる納税者において交付すると同時に、目黒税務署に対する納税を完了したものであると共に、その金員は税金として同税務署の所有に帰属し、被告人は、その交付を受くると同時にこれが金員の保管を始めたものであつて、被告人は、その保管にかかる金員を自己の用途に費消したものであるから、横領の罪の成立するは格別詐欺の罪の成立する余地はないという趣旨の主張をしている。然しながらすでにして、不法に領得するの意思をもつて、欺罔手段を施して人を錯誤に陷らしめ、これが錯誤に基づき財物を交付せしめた事実あるにおいては、直ちに詐欺の罪は成立し、その際、たまたま、その財物が、その交付を受くると同時に他人の所有に帰属し、その交付者において一定の債務を免かるべき法律関係にあると共に、犯人においてその交付を受けたるにおいては、本来の職務としては、その他人たる本人のためこれを保管占有すべき関係にあり、従つて同犯人において擅にこれを自己の用途に費消するときは、右交付を受けたる後の法律関係としては、恰も横領の罪の形態を備うるが如きものがあるとするも、これは、右すでに成立した詐欺の罪によつて取得した財物の単なる事後処分にすぎず、これが事後における処分につき、更に横領の罪の成立なきは勿論、財物の交付を受けたると同時以後における法律関係が右の如くなるの故をもつて、すでに成立した詐欺の罪の成立に何等消長のあるべきかぎりではない。果して然らば、所論は要するに、すでに成立した詐欺の罪によつて取得した財物の単なる事後の処分に該当する事実を捉えて原判決を非難するものであつて、右説示するところに照らし、所論いうが如き事由あるにより、被告人の所為につき横領罪の成立する余地はない。論旨は理由がない。

註 原判決の認定した公文書偽造行使詐欺の事実は、「被告人はM税務署に直税課資税相談係雇員として勤務中納税者から金員を騙取して自動車営業の資金を作ろうと考え、二六・三、上旬頃相続税納付の手続を尋ねるため来署したKをその頃右居宅に訪ねて種々手続上の話をした上、一時に完納することは困難であろうから、幸い自分が兄から融通を受けて完納しておくから後で自分に分割して支払つてくれればよいと虚構のことを言つておき、行使の目的をもつて、擅に(中略)―もつてM税務署分任収入官吏大蔵事務官NがK等から相続税七十一万円を受領した旨の右N名義のその署名捺印ある領収証書一通を偽造し、これを同日頃前記K方で真実の領収証書のように装つて同人に渡して行使し同人をそのように信用させた上同人から右立替金の分割弁済としていずれも同所で即日現金六万円、同月十一日頃現金二十万円、同月二十三日頃現金十五万円、同年五月下旬頃現金十五万円、同年七月九日頃現金五万円、同年九月上旬頃現金十万円をそれぞれ交付させて以て現金合計七十一万円を騙取したものである。

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